将来の夢へと続く学び将来の夢へと続く学び

宇宙に存在する未知の物質「暗黒物質」の研究に取り組んできた、機械工学科4年の今村光拓さん。学科の垣根がない「総合工学プログラム」で入学したことで、「さまざまな分野の教授と身近に接し、進むべき方向性を見いだせた」と話す。在学中にはJAXAでの共同研究にも携わり、その経験や知識を生かして、春からは社会人として新たなステージに進む。

工学分野を幅広く学び、専門を選ぶ

小学校の低学年の頃、学校でもらった「星座早見盤」を手に眺めた星空。広大な空間に点々と浮かぶ星の存在が不思議に感じられ、いつしか宇宙という未知の世界に引き込まれていきました。それからは、宇宙に関するテレビ番組や、海外のディスカバリーチャンネルなどをよく見るようになり、将来は宇宙に関わる仕事に就けたらと漠然と考えるようになっていました。

そして、機械を触ることが好きだった私は、大学進学にあたり、工学部で機械工学を学ぼうと考えました。一般的に大学に入学するときには、学科を選んで入試を受けますが、神奈川大学には「総合工学プログラム」という選択肢があることを知り、受験しました。入学時に学科を選ばず、1、2年次は工学分野を幅広く学んだうえで、3年次から所属する学科を選ぶという学び方ができるということに魅力を感じたのです。

入学して工学分野のさまざまな授業を受けてみると、専門的な内容の講義や実験なども多く、高校生の頃には苦手意識の強かった生物学にも興味を持てるようになりました。例えば、花の色のDNAについて学んだときには、実際に生花店で売られている花を見て、「人工的にこの色が出るDNAを組み込んだのだな」と考えるなど、これまでとは違った視点で身の回りのさまざまな物事を見つめられるようになった自分に驚いたものです。そして、3年次からの所属を選ぶ際にも、もともと進もうと考えていた機械工学がよいか、生物学がよいかと迷うほどでした。

宇宙の起源に関わる謎の解明に携わりたい

「総合工学プログラム」は、先生と学生の距離の近さが特色です。大学では自分が履修する授業を自分で決めて、時間割を組み立てますが、入学当初は、どのような授業を履修すればよいのかなどもわかりません。そんなときには先生方に相談して、登録を進めることができました。また、工学分野の幅広い授業科目を通じて、先生方の研究内容に触れるため、自分が興味をもった内容や学びを深めたい分野などを見つけやすく、3年次から所属する研究室についての情報も早くから得ることができます。実際に私自身も、初年次教育科目のFYS(First Year Seminar)で清水雄輝先生の授業を受けたことがきっかけで、宇宙について学びを深めたいと思い、清水研究室(宇宙環境計測研究室)を選びました。

清水研究室では、宇宙空間に存在する暗黒物質の探索などの、宇宙・素粒子物理学に関わる研究を進めています。暗黒物質とは、星や星間ガスなどの目に見える物質の何倍もの量の見えない物質で、現在の宇宙ができるまでの進化の仕方を決める重要な存在です。私は、宇宙空間に飛び交う未知の粒子を探すための測定器の開発を行い、宇宙の起源に関わる謎を解明する、という研究に夢を感じて、清水先生のもとで研究に取り組みたいと入室を希望しました。

JAXAでの共同研究に携わり、研究の姿勢を学ぶ

自分がこうして宇宙と関わる研究に携わることになったのは、今にして思えば、小学生の頃に仰ぎ見た星空によって導かれていたのかもしれません。そして、清水先生との出会いによって、さらに自分の可能性が広がりました。清水先生は宇宙航空研究開発機構(JAXA)や他大学との共同研究を進めており、私もそのご縁から、4年次にはJAXA相模原キャンパスで「南極周回気球搭載宇宙反粒子測定器(GAPS)」を開発する共同研究に携わらせていただく機会を得ました。

恒温槽内の試験体と熱板

日本、アメリカ、イタリアなどによる国際共同実験計画である「GAPS計画」は、宇宙線反粒子の高感度観測を通じたダークマター探索を主目的としています。GAPSを搭載した気球プラットフォームを、南極基地から打ち上げ、3回で合計約100日間、南極上空の気流に乗せて飛ばすことが計画されています。私は測定機器の組み立て、実験、計測、データ処理などに携わりました。実験は必ずしも成功するとは限りません。むしろ仮説の数値通りの結果が出ないことの方が多いぐらいです。そして、なぜ仮説を立てた数値が出なかったのかを考察し、研究員の方々と議論を深め、要因を探り、最終的には正確な数値を導き出していきます。私はどちらかというと大雑把な性格ですが、研究では一つひとつの数値の小さなズレが、結果に影響をもたらします。研究員の方々は、メーカー値に頼ることなく、不安要素があれば、実験をして地道に数値を測定し、正確なデータを集めていきます。大学の研究室では、先生と一緒に実験をしながら指導を受けることができますが、JAXAのような研究の現場では、常に緊張感と緻密さをもって研究と向き合う姿勢が大切だと痛感しました。

2022年以降には、GAPSのフライトが予定されています。自分が開発に携わった機器が、宇宙の謎の解明につながっていると思うとうれしく、宇宙への興味が尽きることはありません。卒業後は一旦就職をしますが、将来的には大学院へ進み、宇宙の謎に迫る研究に取り組むことも視野に入れています。

これから入学するみなさんにも、ぜひ「総合工学プログラム」を通じて、じっくりと自分が興味ある分野と出会い、進みたい学科や研究室を見つけてほしいと思います。そして、工学分野の幅広い知識と高い専門性を身につけて、夢中になれる研究に取り組んでください。

戻る

INTERVIEW